伊之助 イラスト 可愛い。 《鬼滅の刃》伊之助はかわいい!シーンやイラスト・ミニキャラを凝縮

《鬼滅の刃》善逸がかわいい!シーンやイラスト・ミニキャラまで大紹介

伊之助 イラスト 可愛い

「ただいま」 成人したのを機に一人暮らしを始めた炭治郎だが、帰宅時の挨拶を欠かさない。 幼少の頃より習慣付いていることなので、実家と違い迎えてくれる者がいないアパートの一室に帰り着くようになった今でも、自然と続けている行為である。 「あ」 しかし、今日は少し違った。 玄関先に見慣れた青いスニーカーが乱雑に放り出されていることに気がつき、炭治郎は笑みを浮かべる。 炭治郎のものではないその靴は、恋人が愛用しているものであるからだ。 「まったく、また脱ぎ散らかしてるじゃないか」 炭治郎はそんなことを呟きつつ、スニーカーを丁寧に揃えた。 これは何度注意しても治らない、恋人の悪癖だ。 その場で言えば不満を漏らしながらも靴を揃えて置くのだが、暫くするとすぐに炭治郎の言葉を忘れ、また脱ぎ散らかしてしまうのだ。 恋人への小言を口にしている炭治郎であるが、素直なくせに忘れっぽいところがあって、そんなところもちょっと可愛いんだよなぁ、と頭の片隅で考えているので、痘痕も笑窪というやつだろう。 「お前はあいつに甘すぎる」とは、炭治郎達の事をよく知る友人の弁である。 恋人には、この部屋の合鍵を渡してある。 それなのに滅多に使ってくれないので、炭治郎は少し残念に思っていた。 さり気なく渡したつもりだが、本当はとても緊張していたのだ。 手汗が凄くて、鍵を渡す時に気づかれないか密かにドキドキしていたのも、今では良い思い出である。 珍しく鍵を使ってくれた事が嬉しくて、うきうきとしながら炭治郎は靴を脱ぎリビングへ足を進めた。 そこでは愛しの恋人が待っていて、「帰ってくんのが遅せぇんだよ」と悪態をつきながらも、何だかんだ里親のひさにしっかり躾けられているので、「おかえり」と言ってくれるだろう。 それは誰に言われても嬉しい言葉だが、恋人からのものだと思うと、一等特別に心が踊ってしまう。 しかし炭治郎のそんな予想は、目の前の光景にあっさりと覆された。 「……あれ?」 大好きな恋人は、確かにいた。 リビングの床に、横になった状態で。 「伊之助?」 名前を呼んでも反応がない。 一瞬、具合でも悪いのかと思い慌てて駆け寄るが、聞こえてくる呼吸音は規則正しいもので、ほっと胸を撫で下ろす。 そうっと顔を覗き込んで見れば、伊之助の両目はしっかりと閉じられていた。 「寝ちゃってるのか……」 少し……いや、かなりがっかりした声が出てしまう。 今日は実家に顔を出し、兄妹達にせがまれて夕飯を共にしてから帰宅したのだが、伊之助が来ていたならもうちょっと早く帰ってくれば良かったかなぁ、と少し薄情な事を思ってしまう。 家族の事は命より大切に思っているが、伊之助の事もまた、炭治郎は大切に想っているので。 ふと伊之助が腕に抱きしめているものに気がついて、炭治郎の胸がきゅんと鳴る。 この部屋には伊之助専用の大きな天ぷら形のクッションがあり、彼は手持ち無沙汰な時はこれを抱いているのだが、今、伊之助の腕の中にあるのは、このお気に入りのクッションではなくて、炭治郎が普段使っている枕だった。 それを抱きしめて、横になった体勢で伊之助は眠っている。 伊之助の思わぬ可愛らしい行動につい顔がにやけてしまうが、同時に寂しい思いをさせてしまったのだろうかと、申し訳ない気持ちも浮かんだ。 彼が連絡なくやって来るのは珍しい事ではないが、今までは炭治郎が家に居る時の訪問だった。 一人で炭治郎を待つ間、伊之助が抱きしめるのに選んだものに彼の本心が滲んでいるような気がして、じわりと胸が熱くなる。 起きるかな、と思いそっと頬を撫でてみても、伊之助は目覚めなかった。 すべすべしていて柔らかくて気持ちがいいその肌の感触を、炭治郎はしばらく楽しむ。 長い睫毛、すらっと通った鼻筋、ふっくらした頬、艶々の唇。 陶器のように白く透明感のある肌と毛先に向かって明るくなる藍の髪の色合いは、もはや神秘的ですらある。 何度目にしても見惚れてしまうくらい、美しい寝顔だ。 炭治郎の口から、ほぅ、と感嘆のため息が漏れる。 伊之助は起きている時はころころ表情が変わって至極愛らしいのだが、眠っていると顔立ちそのものの端正さが強調されて、まるで別人のような雰囲気になる。 炭治郎は伊之助の頬から手のひらを滑らせ、額にかかる髪を丁寧に払った。 そしてふと、その目の下に薄く隈が出来ていることに気がついた。 そういえば、今度大きな絵を描くから、描き上がったら見に来い、と彼が言っていた事を思い出す。 そして、しばらくはその絵にかかりきりになるから、あまり会えなくなる、とも。 もしかして、その絵を描き終えてすぐにここに来てくれたのかな。 と、炭治郎は思った。 滅多に使わない合鍵を使用して、炭治郎の帰りを待っていてくれたのだろうか。 流石にどうして伊之助がそんなことをしたのかわからない程、鈍くはないつもりだ。 「……俺も会いたかったぞ、伊之助」 伊之助の前髪を掻き分けて出てきた、つるりとした可愛らしい額に、炭治郎は口付けた。 本当は唇にしたかったけれど、眠っている彼に無断で口付けるのは、恋人であってもしてはいけないと思い我慢する。 おでこならいいのか? という疑問が残るところではあるが、伊之助に対する愛おしさが溢れてしまって抑えきれなかったのだから、仕方ない。 伊之助の額からゆっくりと唇を離し、もう一度その寝顔を視界に入れる。 自分が口付けた箇所を撫でながら、炭治郎は満足気に微笑んだ。 こうして直接触れていても起きないくらい深く眠っているのは、ここが伊之助にとって安心出来る場所だからなのだろう。 それがとても嬉しくて、ここが彼にとって特別な場所であるという事の証明のようで、ある種の優越感が胸を満たしていく。 よく眠っているので起こすのは可哀想だったが、固い床の上にずっと寝転がっていたら身体を痛めてしまうので、炭治郎は心を鬼にして伊之助の肩に手を置いた。 「伊之助、ただいま。 来てくれたのに、遅くなってごめんな」 声をかけながら何度か軽く揺さぶると、彼の形の良い眉が八の字を描く。 「伊之助」 もう一度優しく呼びかけると、ぴくりと瞼が動いた。 そして薄くその瞳が開かれて、美しい常盤色が表れる。 「もん……じろ……?」 おまえ、かえってくんのが、おせぇんだよ。 むにゃむにゃと口を動かし、不明瞭な発音でそう言ってきた伊之助の言葉は、炭治郎が予想していた通りのもので。 ついくすりと笑ってしまう。 「俺は炭治郎だぞ、伊之助。 ご飯は食べたか? このまま寝るか?」 「めし……は、ひさばぁんとこで、くった……」 「そうか」 ならばこのままベッドに移動させ、眠らせてやろう。 寝巻きに着替えさせるのは難しそうだが、今日の伊之助の服装はラフなTシャツとジーンズなので、下だけ脱がせてやればいいか。 炭治郎は伊之助の頭を撫でながら、そんな事を考える。 「伊之助、ちょっとだけ起きられるか? ベッドで寝よう」 少し身を屈めて耳元で囁くように言うと、伊之助がう゛〜んと唸った。 そしてとろんとした瞳で炭治郎を見たかと思うと、枕を手放し両手を伸ばして抱きついてくる。 「ん……おまえ、たんじろう、だな……」 確かめるように炭治郎の顔を見つめた伊之助はそう呟いて、満足そうにふわりと笑った。 無垢で無邪気なその笑みに、思わずドキリとしてしまう。 「おかえり、たんじろう」 そして伊之助は、そう言って炭治郎の顔に自身の頬を、ぐりぐりとすり付けてきた。 まさかちゃんと名前を呼ばれた上にそんな嬉しい言葉を貰い、更にこんな可愛い事をされるだなんて。 完全に予想外であった炭治郎の心臓は、面白いくらい跳ね上がる。 ドッ、と鼓動が強く脈打ち、一気に顔が熱くなった。 「い、伊之助っ!?」 どうして今日はこんなに甘えたなのだろうか。 嬉しいけれど、突然こんな可愛いらしい事をされると困ってしまう。 いや、困らないけれど、全然全く困らないのだけれど、でも理性という名の糸の耐久度が現在進行形で試されているのを、炭治郎は感じていた。 頬をすり寄せることは止めた伊之助だが、ん〜、とむずがりながら腕に力を込め、より密着してくる。 そんな伊之助の背にさり気なく手を回した炭治郎は、しかしそこから動けなくなっていた。 だって、伊之助がとても可愛い。 彼はいつでも炭治郎の可愛い恋人だけれど、でも何だか今日はまた特別に可愛らしくて、邪な感情がむくむくと沸き起こってきそうになる。 伊之助は殆ど眠っているのに近い状態で寝惚けているからこんな可愛いらしい言動をしているわけで、だから同意なくそういうことはしてはいけない、絶対にいけない。 と、炭治郎は自身に言い聞かせた。 俺は長男だから、我慢出来るはずだ、と。 この手をあらぬ場所に動かしてはいけないと、持ち得る全ての自制心を動員する。 伊之助の身体は寝ていた為か少し体温が高くて、抱きつかれているからじわじわとそのぬくもりがこちらの身体にも移ってくる感覚が、何とも言えず堪らない。 心地良いけれどこそばゆいような、物足りないような、だけどずっとこうしていたいような。 一言では言い表せない複雑な感情が炭治郎の胸の中いっぱいに広がって、どんどんと絡み合っていく。 それは全部、彼を愛おしく想う気持ちである事だけは、確かなのだけれど。 だからこそ炭治郎は、この気持ちで彼を傷つけるようなことは、したくないと思うのだ。 「伊之助……」 炭治郎は己の欲を隠すように呟いて、そっと伊之助の首筋に顔を埋めた。 シャワーを浴びてきたのだろうか、伊之助からは汗の匂いはあまりせず、いつも彼が使っている石鹸とシャンプーの匂いがする。 そこに絵の具の匂いが混ざっているのは、身体や衣服に染み付いているからだろう。 炭治郎の知らないところでも伊之助が頑張っているのがわかって嬉しくなると同時に、少しだけ寂しい気持ちにもなってしまう。 高校生だった時には、今よりずっと側にいられた。 だけどきっと、今の方が本当の意味で近づけているのだと思う。 伊之助のことが好きだという炭治郎の気持ちは、あの頃から変わらない。 だけど少し心が狭くなってしまったかなぁ、と時々感じてしまう。 自分の知らない伊之助の姿を想像すると、胸の辺りがちくりと痛み、知らない人物の名前がその口から出てくると、酷く落ち着かない気持ちになる時があるのだ。 いつから自分は、こんなに欲張りになったのだろう。 だけど仕方がないとも炭治郎は思う。 伊之助は自分にとって、たった一人の特別に好きな人なのだから。 「好きだぞ、伊之助。 大好きだ」 伊之助の耳元で囁くように告げて、今度は頬に口付ける。 伊之助はやはり目を覚まさなかったが、構わなかった。 炭治郎は満たされた気持ちで伊之助を抱き上げて、その身体をすぐ側にあるベッドの上に運ぶ。 来客用の布団もあるが、伊之助とはいつもベッドで共に眠っている。 一人暮らしを始める時に思い切って購入した、一人用には少し大きいサイズのベッドは、その為のものなので。 ゆっくりと伊之助の身体をベッドに下ろすと、ぎしりとスプリングの軋む音がした。 炭治郎は名残り惜しみながら、抱きつく為に絡められている伊之助の腕を丁寧に解く。 あたたかな身体から身を離すと途端に寂しさが湧いてきて、炭治郎はそんな自分に苦笑した。 早く寝支度を済ませて、伊之助と一緒に寝よう。 そう思って移動しようとした矢先、伊之助が薄く目を開いた。 「……どっか……いくのか……?」 ごんぱちろ、と舌ったらずに名前を呼ばれ、その上服の裾をちょこんと掴まれて、炭治郎の頭は一瞬真っ白になった。 ……いや。 いやいやいや。 ちょっと駄目だろう、これは。 ちょっと駄目なくらい、可愛らしすぎるだろう……! 変な声が漏れそうになるのを、炭治郎は何とか堪えた。 そしてどこか心細そうな伊之助を安心させる為にしっかりと目を合わせ、にこりと笑いかける。 「大丈夫、俺はどこにもいかないよ。 寝る準備をしてくるだけだ。 伊之助はここで待っていてくれるか?」 そう尋ねると、伊之助はゆっくりと目を瞬かせて、こくりと小さく頷いた。 「うん、いい子だ。 ……寝ちゃっててもいいからな」 あやすように頭を撫でてやると、伊之助はむにむにと口を動かした。 「なめんじゃ、ねぇ……ぞ。 よゆーで……まてる、わ……」 既に八割くらい眠っているような声で言われてしまって、その微笑ましさに炭治郎は目を細めた。 うん、うん、と相槌を打ち、伊之助の鼻先にキスを落とす。 「すぐ戻るよ」 「ん……」 裾を掴んでいる伊之助の手をやんわりと外し、炭治郎は立ち上がった。 そして後ろ髪を引かれながら、リビングから離れて洗面所へ向かう。 洗面台の前に立った炭治郎は、はあぁぁぁ……と大きく息をついた。 危なかった。 色々と、こう、本当に危なかった。 正面の鏡に映る自分の顔は面白いくらいに赤く、何とも言えない気恥ずかしさに、炭治郎は目を逸らして口元を手で押さえる。 ……久しぶりに、理性がどこかへ飛んで行きそうになってしまった。 でもあれは反則だろう。 ちょこんと裾を掴んできた伊之助の手と、眠たそうにしながらも寂しさを浮かべて潤む常盤色の瞳を思い出し、炭治郎はぶんぶんと首を横に振った。 胸がきゅんとする感覚は問題ないが、ムラっとしてしまうのはいただけない。 炭治郎はすぅ、はぁ、と深呼吸をして、ぱちんと両頬を手のひらで挟んだ。 頬のじんじんとした程良い痛みに、煩悩が引いていく。 よし、早く支度して眠ろう、と無駄に気合いを入れ直す。 歯を磨き、軽くシャワーを浴びて寝巻きに着替え、大好きな恋人が待っているベッドへ向かう。 あまりに幸せな一日の終わりに、炭治郎の顔は自然と緩んだ。 ……でも、今度伊之助がしっかり起きている時は、ちょっと色々我慢出来る自信がないなぁ。 入浴の為に服を脱ぎながら、そんな事を思う炭治郎だった。 ベッドまで運んであげようと腕に触れたら起こしてしまった。 「ベッドで寝よう」と声を掛けるとゔ〜んとか言って抱き着かれた。 甘えんぼさんめ。

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伊之助 イラスト 可愛い

「ただいま」 成人したのを機に一人暮らしを始めた炭治郎だが、帰宅時の挨拶を欠かさない。 幼少の頃より習慣付いていることなので、実家と違い迎えてくれる者がいないアパートの一室に帰り着くようになった今でも、自然と続けている行為である。 「あ」 しかし、今日は少し違った。 玄関先に見慣れた青いスニーカーが乱雑に放り出されていることに気がつき、炭治郎は笑みを浮かべる。 炭治郎のものではないその靴は、恋人が愛用しているものであるからだ。 「まったく、また脱ぎ散らかしてるじゃないか」 炭治郎はそんなことを呟きつつ、スニーカーを丁寧に揃えた。 これは何度注意しても治らない、恋人の悪癖だ。 その場で言えば不満を漏らしながらも靴を揃えて置くのだが、暫くするとすぐに炭治郎の言葉を忘れ、また脱ぎ散らかしてしまうのだ。 恋人への小言を口にしている炭治郎であるが、素直なくせに忘れっぽいところがあって、そんなところもちょっと可愛いんだよなぁ、と頭の片隅で考えているので、痘痕も笑窪というやつだろう。 「お前はあいつに甘すぎる」とは、炭治郎達の事をよく知る友人の弁である。 恋人には、この部屋の合鍵を渡してある。 それなのに滅多に使ってくれないので、炭治郎は少し残念に思っていた。 さり気なく渡したつもりだが、本当はとても緊張していたのだ。 手汗が凄くて、鍵を渡す時に気づかれないか密かにドキドキしていたのも、今では良い思い出である。 珍しく鍵を使ってくれた事が嬉しくて、うきうきとしながら炭治郎は靴を脱ぎリビングへ足を進めた。 そこでは愛しの恋人が待っていて、「帰ってくんのが遅せぇんだよ」と悪態をつきながらも、何だかんだ里親のひさにしっかり躾けられているので、「おかえり」と言ってくれるだろう。 それは誰に言われても嬉しい言葉だが、恋人からのものだと思うと、一等特別に心が踊ってしまう。 しかし炭治郎のそんな予想は、目の前の光景にあっさりと覆された。 「……あれ?」 大好きな恋人は、確かにいた。 リビングの床に、横になった状態で。 「伊之助?」 名前を呼んでも反応がない。 一瞬、具合でも悪いのかと思い慌てて駆け寄るが、聞こえてくる呼吸音は規則正しいもので、ほっと胸を撫で下ろす。 そうっと顔を覗き込んで見れば、伊之助の両目はしっかりと閉じられていた。 「寝ちゃってるのか……」 少し……いや、かなりがっかりした声が出てしまう。 今日は実家に顔を出し、兄妹達にせがまれて夕飯を共にしてから帰宅したのだが、伊之助が来ていたならもうちょっと早く帰ってくれば良かったかなぁ、と少し薄情な事を思ってしまう。 家族の事は命より大切に思っているが、伊之助の事もまた、炭治郎は大切に想っているので。 ふと伊之助が腕に抱きしめているものに気がついて、炭治郎の胸がきゅんと鳴る。 この部屋には伊之助専用の大きな天ぷら形のクッションがあり、彼は手持ち無沙汰な時はこれを抱いているのだが、今、伊之助の腕の中にあるのは、このお気に入りのクッションではなくて、炭治郎が普段使っている枕だった。 それを抱きしめて、横になった体勢で伊之助は眠っている。 伊之助の思わぬ可愛らしい行動につい顔がにやけてしまうが、同時に寂しい思いをさせてしまったのだろうかと、申し訳ない気持ちも浮かんだ。 彼が連絡なくやって来るのは珍しい事ではないが、今までは炭治郎が家に居る時の訪問だった。 一人で炭治郎を待つ間、伊之助が抱きしめるのに選んだものに彼の本心が滲んでいるような気がして、じわりと胸が熱くなる。 起きるかな、と思いそっと頬を撫でてみても、伊之助は目覚めなかった。 すべすべしていて柔らかくて気持ちがいいその肌の感触を、炭治郎はしばらく楽しむ。 長い睫毛、すらっと通った鼻筋、ふっくらした頬、艶々の唇。 陶器のように白く透明感のある肌と毛先に向かって明るくなる藍の髪の色合いは、もはや神秘的ですらある。 何度目にしても見惚れてしまうくらい、美しい寝顔だ。 炭治郎の口から、ほぅ、と感嘆のため息が漏れる。 伊之助は起きている時はころころ表情が変わって至極愛らしいのだが、眠っていると顔立ちそのものの端正さが強調されて、まるで別人のような雰囲気になる。 炭治郎は伊之助の頬から手のひらを滑らせ、額にかかる髪を丁寧に払った。 そしてふと、その目の下に薄く隈が出来ていることに気がついた。 そういえば、今度大きな絵を描くから、描き上がったら見に来い、と彼が言っていた事を思い出す。 そして、しばらくはその絵にかかりきりになるから、あまり会えなくなる、とも。 もしかして、その絵を描き終えてすぐにここに来てくれたのかな。 と、炭治郎は思った。 滅多に使わない合鍵を使用して、炭治郎の帰りを待っていてくれたのだろうか。 流石にどうして伊之助がそんなことをしたのかわからない程、鈍くはないつもりだ。 「……俺も会いたかったぞ、伊之助」 伊之助の前髪を掻き分けて出てきた、つるりとした可愛らしい額に、炭治郎は口付けた。 本当は唇にしたかったけれど、眠っている彼に無断で口付けるのは、恋人であってもしてはいけないと思い我慢する。 おでこならいいのか? という疑問が残るところではあるが、伊之助に対する愛おしさが溢れてしまって抑えきれなかったのだから、仕方ない。 伊之助の額からゆっくりと唇を離し、もう一度その寝顔を視界に入れる。 自分が口付けた箇所を撫でながら、炭治郎は満足気に微笑んだ。 こうして直接触れていても起きないくらい深く眠っているのは、ここが伊之助にとって安心出来る場所だからなのだろう。 それがとても嬉しくて、ここが彼にとって特別な場所であるという事の証明のようで、ある種の優越感が胸を満たしていく。 よく眠っているので起こすのは可哀想だったが、固い床の上にずっと寝転がっていたら身体を痛めてしまうので、炭治郎は心を鬼にして伊之助の肩に手を置いた。 「伊之助、ただいま。 来てくれたのに、遅くなってごめんな」 声をかけながら何度か軽く揺さぶると、彼の形の良い眉が八の字を描く。 「伊之助」 もう一度優しく呼びかけると、ぴくりと瞼が動いた。 そして薄くその瞳が開かれて、美しい常盤色が表れる。 「もん……じろ……?」 おまえ、かえってくんのが、おせぇんだよ。 むにゃむにゃと口を動かし、不明瞭な発音でそう言ってきた伊之助の言葉は、炭治郎が予想していた通りのもので。 ついくすりと笑ってしまう。 「俺は炭治郎だぞ、伊之助。 ご飯は食べたか? このまま寝るか?」 「めし……は、ひさばぁんとこで、くった……」 「そうか」 ならばこのままベッドに移動させ、眠らせてやろう。 寝巻きに着替えさせるのは難しそうだが、今日の伊之助の服装はラフなTシャツとジーンズなので、下だけ脱がせてやればいいか。 炭治郎は伊之助の頭を撫でながら、そんな事を考える。 「伊之助、ちょっとだけ起きられるか? ベッドで寝よう」 少し身を屈めて耳元で囁くように言うと、伊之助がう゛〜んと唸った。 そしてとろんとした瞳で炭治郎を見たかと思うと、枕を手放し両手を伸ばして抱きついてくる。 「ん……おまえ、たんじろう、だな……」 確かめるように炭治郎の顔を見つめた伊之助はそう呟いて、満足そうにふわりと笑った。 無垢で無邪気なその笑みに、思わずドキリとしてしまう。 「おかえり、たんじろう」 そして伊之助は、そう言って炭治郎の顔に自身の頬を、ぐりぐりとすり付けてきた。 まさかちゃんと名前を呼ばれた上にそんな嬉しい言葉を貰い、更にこんな可愛い事をされるだなんて。 完全に予想外であった炭治郎の心臓は、面白いくらい跳ね上がる。 ドッ、と鼓動が強く脈打ち、一気に顔が熱くなった。 「い、伊之助っ!?」 どうして今日はこんなに甘えたなのだろうか。 嬉しいけれど、突然こんな可愛いらしい事をされると困ってしまう。 いや、困らないけれど、全然全く困らないのだけれど、でも理性という名の糸の耐久度が現在進行形で試されているのを、炭治郎は感じていた。 頬をすり寄せることは止めた伊之助だが、ん〜、とむずがりながら腕に力を込め、より密着してくる。 そんな伊之助の背にさり気なく手を回した炭治郎は、しかしそこから動けなくなっていた。 だって、伊之助がとても可愛い。 彼はいつでも炭治郎の可愛い恋人だけれど、でも何だか今日はまた特別に可愛らしくて、邪な感情がむくむくと沸き起こってきそうになる。 伊之助は殆ど眠っているのに近い状態で寝惚けているからこんな可愛いらしい言動をしているわけで、だから同意なくそういうことはしてはいけない、絶対にいけない。 と、炭治郎は自身に言い聞かせた。 俺は長男だから、我慢出来るはずだ、と。 この手をあらぬ場所に動かしてはいけないと、持ち得る全ての自制心を動員する。 伊之助の身体は寝ていた為か少し体温が高くて、抱きつかれているからじわじわとそのぬくもりがこちらの身体にも移ってくる感覚が、何とも言えず堪らない。 心地良いけれどこそばゆいような、物足りないような、だけどずっとこうしていたいような。 一言では言い表せない複雑な感情が炭治郎の胸の中いっぱいに広がって、どんどんと絡み合っていく。 それは全部、彼を愛おしく想う気持ちである事だけは、確かなのだけれど。 だからこそ炭治郎は、この気持ちで彼を傷つけるようなことは、したくないと思うのだ。 「伊之助……」 炭治郎は己の欲を隠すように呟いて、そっと伊之助の首筋に顔を埋めた。 シャワーを浴びてきたのだろうか、伊之助からは汗の匂いはあまりせず、いつも彼が使っている石鹸とシャンプーの匂いがする。 そこに絵の具の匂いが混ざっているのは、身体や衣服に染み付いているからだろう。 炭治郎の知らないところでも伊之助が頑張っているのがわかって嬉しくなると同時に、少しだけ寂しい気持ちにもなってしまう。 高校生だった時には、今よりずっと側にいられた。 だけどきっと、今の方が本当の意味で近づけているのだと思う。 伊之助のことが好きだという炭治郎の気持ちは、あの頃から変わらない。 だけど少し心が狭くなってしまったかなぁ、と時々感じてしまう。 自分の知らない伊之助の姿を想像すると、胸の辺りがちくりと痛み、知らない人物の名前がその口から出てくると、酷く落ち着かない気持ちになる時があるのだ。 いつから自分は、こんなに欲張りになったのだろう。 だけど仕方がないとも炭治郎は思う。 伊之助は自分にとって、たった一人の特別に好きな人なのだから。 「好きだぞ、伊之助。 大好きだ」 伊之助の耳元で囁くように告げて、今度は頬に口付ける。 伊之助はやはり目を覚まさなかったが、構わなかった。 炭治郎は満たされた気持ちで伊之助を抱き上げて、その身体をすぐ側にあるベッドの上に運ぶ。 来客用の布団もあるが、伊之助とはいつもベッドで共に眠っている。 一人暮らしを始める時に思い切って購入した、一人用には少し大きいサイズのベッドは、その為のものなので。 ゆっくりと伊之助の身体をベッドに下ろすと、ぎしりとスプリングの軋む音がした。 炭治郎は名残り惜しみながら、抱きつく為に絡められている伊之助の腕を丁寧に解く。 あたたかな身体から身を離すと途端に寂しさが湧いてきて、炭治郎はそんな自分に苦笑した。 早く寝支度を済ませて、伊之助と一緒に寝よう。 そう思って移動しようとした矢先、伊之助が薄く目を開いた。 「……どっか……いくのか……?」 ごんぱちろ、と舌ったらずに名前を呼ばれ、その上服の裾をちょこんと掴まれて、炭治郎の頭は一瞬真っ白になった。 ……いや。 いやいやいや。 ちょっと駄目だろう、これは。 ちょっと駄目なくらい、可愛らしすぎるだろう……! 変な声が漏れそうになるのを、炭治郎は何とか堪えた。 そしてどこか心細そうな伊之助を安心させる為にしっかりと目を合わせ、にこりと笑いかける。 「大丈夫、俺はどこにもいかないよ。 寝る準備をしてくるだけだ。 伊之助はここで待っていてくれるか?」 そう尋ねると、伊之助はゆっくりと目を瞬かせて、こくりと小さく頷いた。 「うん、いい子だ。 ……寝ちゃっててもいいからな」 あやすように頭を撫でてやると、伊之助はむにむにと口を動かした。 「なめんじゃ、ねぇ……ぞ。 よゆーで……まてる、わ……」 既に八割くらい眠っているような声で言われてしまって、その微笑ましさに炭治郎は目を細めた。 うん、うん、と相槌を打ち、伊之助の鼻先にキスを落とす。 「すぐ戻るよ」 「ん……」 裾を掴んでいる伊之助の手をやんわりと外し、炭治郎は立ち上がった。 そして後ろ髪を引かれながら、リビングから離れて洗面所へ向かう。 洗面台の前に立った炭治郎は、はあぁぁぁ……と大きく息をついた。 危なかった。 色々と、こう、本当に危なかった。 正面の鏡に映る自分の顔は面白いくらいに赤く、何とも言えない気恥ずかしさに、炭治郎は目を逸らして口元を手で押さえる。 ……久しぶりに、理性がどこかへ飛んで行きそうになってしまった。 でもあれは反則だろう。 ちょこんと裾を掴んできた伊之助の手と、眠たそうにしながらも寂しさを浮かべて潤む常盤色の瞳を思い出し、炭治郎はぶんぶんと首を横に振った。 胸がきゅんとする感覚は問題ないが、ムラっとしてしまうのはいただけない。 炭治郎はすぅ、はぁ、と深呼吸をして、ぱちんと両頬を手のひらで挟んだ。 頬のじんじんとした程良い痛みに、煩悩が引いていく。 よし、早く支度して眠ろう、と無駄に気合いを入れ直す。 歯を磨き、軽くシャワーを浴びて寝巻きに着替え、大好きな恋人が待っているベッドへ向かう。 あまりに幸せな一日の終わりに、炭治郎の顔は自然と緩んだ。 ……でも、今度伊之助がしっかり起きている時は、ちょっと色々我慢出来る自信がないなぁ。 入浴の為に服を脱ぎながら、そんな事を思う炭治郎だった。 ベッドまで運んであげようと腕に触れたら起こしてしまった。 「ベッドで寝よう」と声を掛けるとゔ〜んとか言って抱き着かれた。 甘えんぼさんめ。

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#腐向け 可愛い恋人

伊之助 イラスト 可愛い

「ただいま」 成人したのを機に一人暮らしを始めた炭治郎だが、帰宅時の挨拶を欠かさない。 幼少の頃より習慣付いていることなので、実家と違い迎えてくれる者がいないアパートの一室に帰り着くようになった今でも、自然と続けている行為である。 「あ」 しかし、今日は少し違った。 玄関先に見慣れた青いスニーカーが乱雑に放り出されていることに気がつき、炭治郎は笑みを浮かべる。 炭治郎のものではないその靴は、恋人が愛用しているものであるからだ。 「まったく、また脱ぎ散らかしてるじゃないか」 炭治郎はそんなことを呟きつつ、スニーカーを丁寧に揃えた。 これは何度注意しても治らない、恋人の悪癖だ。 その場で言えば不満を漏らしながらも靴を揃えて置くのだが、暫くするとすぐに炭治郎の言葉を忘れ、また脱ぎ散らかしてしまうのだ。 恋人への小言を口にしている炭治郎であるが、素直なくせに忘れっぽいところがあって、そんなところもちょっと可愛いんだよなぁ、と頭の片隅で考えているので、痘痕も笑窪というやつだろう。 「お前はあいつに甘すぎる」とは、炭治郎達の事をよく知る友人の弁である。 恋人には、この部屋の合鍵を渡してある。 それなのに滅多に使ってくれないので、炭治郎は少し残念に思っていた。 さり気なく渡したつもりだが、本当はとても緊張していたのだ。 手汗が凄くて、鍵を渡す時に気づかれないか密かにドキドキしていたのも、今では良い思い出である。 珍しく鍵を使ってくれた事が嬉しくて、うきうきとしながら炭治郎は靴を脱ぎリビングへ足を進めた。 そこでは愛しの恋人が待っていて、「帰ってくんのが遅せぇんだよ」と悪態をつきながらも、何だかんだ里親のひさにしっかり躾けられているので、「おかえり」と言ってくれるだろう。 それは誰に言われても嬉しい言葉だが、恋人からのものだと思うと、一等特別に心が踊ってしまう。 しかし炭治郎のそんな予想は、目の前の光景にあっさりと覆された。 「……あれ?」 大好きな恋人は、確かにいた。 リビングの床に、横になった状態で。 「伊之助?」 名前を呼んでも反応がない。 一瞬、具合でも悪いのかと思い慌てて駆け寄るが、聞こえてくる呼吸音は規則正しいもので、ほっと胸を撫で下ろす。 そうっと顔を覗き込んで見れば、伊之助の両目はしっかりと閉じられていた。 「寝ちゃってるのか……」 少し……いや、かなりがっかりした声が出てしまう。 今日は実家に顔を出し、兄妹達にせがまれて夕飯を共にしてから帰宅したのだが、伊之助が来ていたならもうちょっと早く帰ってくれば良かったかなぁ、と少し薄情な事を思ってしまう。 家族の事は命より大切に思っているが、伊之助の事もまた、炭治郎は大切に想っているので。 ふと伊之助が腕に抱きしめているものに気がついて、炭治郎の胸がきゅんと鳴る。 この部屋には伊之助専用の大きな天ぷら形のクッションがあり、彼は手持ち無沙汰な時はこれを抱いているのだが、今、伊之助の腕の中にあるのは、このお気に入りのクッションではなくて、炭治郎が普段使っている枕だった。 それを抱きしめて、横になった体勢で伊之助は眠っている。 伊之助の思わぬ可愛らしい行動につい顔がにやけてしまうが、同時に寂しい思いをさせてしまったのだろうかと、申し訳ない気持ちも浮かんだ。 彼が連絡なくやって来るのは珍しい事ではないが、今までは炭治郎が家に居る時の訪問だった。 一人で炭治郎を待つ間、伊之助が抱きしめるのに選んだものに彼の本心が滲んでいるような気がして、じわりと胸が熱くなる。 起きるかな、と思いそっと頬を撫でてみても、伊之助は目覚めなかった。 すべすべしていて柔らかくて気持ちがいいその肌の感触を、炭治郎はしばらく楽しむ。 長い睫毛、すらっと通った鼻筋、ふっくらした頬、艶々の唇。 陶器のように白く透明感のある肌と毛先に向かって明るくなる藍の髪の色合いは、もはや神秘的ですらある。 何度目にしても見惚れてしまうくらい、美しい寝顔だ。 炭治郎の口から、ほぅ、と感嘆のため息が漏れる。 伊之助は起きている時はころころ表情が変わって至極愛らしいのだが、眠っていると顔立ちそのものの端正さが強調されて、まるで別人のような雰囲気になる。 炭治郎は伊之助の頬から手のひらを滑らせ、額にかかる髪を丁寧に払った。 そしてふと、その目の下に薄く隈が出来ていることに気がついた。 そういえば、今度大きな絵を描くから、描き上がったら見に来い、と彼が言っていた事を思い出す。 そして、しばらくはその絵にかかりきりになるから、あまり会えなくなる、とも。 もしかして、その絵を描き終えてすぐにここに来てくれたのかな。 と、炭治郎は思った。 滅多に使わない合鍵を使用して、炭治郎の帰りを待っていてくれたのだろうか。 流石にどうして伊之助がそんなことをしたのかわからない程、鈍くはないつもりだ。 「……俺も会いたかったぞ、伊之助」 伊之助の前髪を掻き分けて出てきた、つるりとした可愛らしい額に、炭治郎は口付けた。 本当は唇にしたかったけれど、眠っている彼に無断で口付けるのは、恋人であってもしてはいけないと思い我慢する。 おでこならいいのか? という疑問が残るところではあるが、伊之助に対する愛おしさが溢れてしまって抑えきれなかったのだから、仕方ない。 伊之助の額からゆっくりと唇を離し、もう一度その寝顔を視界に入れる。 自分が口付けた箇所を撫でながら、炭治郎は満足気に微笑んだ。 こうして直接触れていても起きないくらい深く眠っているのは、ここが伊之助にとって安心出来る場所だからなのだろう。 それがとても嬉しくて、ここが彼にとって特別な場所であるという事の証明のようで、ある種の優越感が胸を満たしていく。 よく眠っているので起こすのは可哀想だったが、固い床の上にずっと寝転がっていたら身体を痛めてしまうので、炭治郎は心を鬼にして伊之助の肩に手を置いた。 「伊之助、ただいま。 来てくれたのに、遅くなってごめんな」 声をかけながら何度か軽く揺さぶると、彼の形の良い眉が八の字を描く。 「伊之助」 もう一度優しく呼びかけると、ぴくりと瞼が動いた。 そして薄くその瞳が開かれて、美しい常盤色が表れる。 「もん……じろ……?」 おまえ、かえってくんのが、おせぇんだよ。 むにゃむにゃと口を動かし、不明瞭な発音でそう言ってきた伊之助の言葉は、炭治郎が予想していた通りのもので。 ついくすりと笑ってしまう。 「俺は炭治郎だぞ、伊之助。 ご飯は食べたか? このまま寝るか?」 「めし……は、ひさばぁんとこで、くった……」 「そうか」 ならばこのままベッドに移動させ、眠らせてやろう。 寝巻きに着替えさせるのは難しそうだが、今日の伊之助の服装はラフなTシャツとジーンズなので、下だけ脱がせてやればいいか。 炭治郎は伊之助の頭を撫でながら、そんな事を考える。 「伊之助、ちょっとだけ起きられるか? ベッドで寝よう」 少し身を屈めて耳元で囁くように言うと、伊之助がう゛〜んと唸った。 そしてとろんとした瞳で炭治郎を見たかと思うと、枕を手放し両手を伸ばして抱きついてくる。 「ん……おまえ、たんじろう、だな……」 確かめるように炭治郎の顔を見つめた伊之助はそう呟いて、満足そうにふわりと笑った。 無垢で無邪気なその笑みに、思わずドキリとしてしまう。 「おかえり、たんじろう」 そして伊之助は、そう言って炭治郎の顔に自身の頬を、ぐりぐりとすり付けてきた。 まさかちゃんと名前を呼ばれた上にそんな嬉しい言葉を貰い、更にこんな可愛い事をされるだなんて。 完全に予想外であった炭治郎の心臓は、面白いくらい跳ね上がる。 ドッ、と鼓動が強く脈打ち、一気に顔が熱くなった。 「い、伊之助っ!?」 どうして今日はこんなに甘えたなのだろうか。 嬉しいけれど、突然こんな可愛いらしい事をされると困ってしまう。 いや、困らないけれど、全然全く困らないのだけれど、でも理性という名の糸の耐久度が現在進行形で試されているのを、炭治郎は感じていた。 頬をすり寄せることは止めた伊之助だが、ん〜、とむずがりながら腕に力を込め、より密着してくる。 そんな伊之助の背にさり気なく手を回した炭治郎は、しかしそこから動けなくなっていた。 だって、伊之助がとても可愛い。 彼はいつでも炭治郎の可愛い恋人だけれど、でも何だか今日はまた特別に可愛らしくて、邪な感情がむくむくと沸き起こってきそうになる。 伊之助は殆ど眠っているのに近い状態で寝惚けているからこんな可愛いらしい言動をしているわけで、だから同意なくそういうことはしてはいけない、絶対にいけない。 と、炭治郎は自身に言い聞かせた。 俺は長男だから、我慢出来るはずだ、と。 この手をあらぬ場所に動かしてはいけないと、持ち得る全ての自制心を動員する。 伊之助の身体は寝ていた為か少し体温が高くて、抱きつかれているからじわじわとそのぬくもりがこちらの身体にも移ってくる感覚が、何とも言えず堪らない。 心地良いけれどこそばゆいような、物足りないような、だけどずっとこうしていたいような。 一言では言い表せない複雑な感情が炭治郎の胸の中いっぱいに広がって、どんどんと絡み合っていく。 それは全部、彼を愛おしく想う気持ちである事だけは、確かなのだけれど。 だからこそ炭治郎は、この気持ちで彼を傷つけるようなことは、したくないと思うのだ。 「伊之助……」 炭治郎は己の欲を隠すように呟いて、そっと伊之助の首筋に顔を埋めた。 シャワーを浴びてきたのだろうか、伊之助からは汗の匂いはあまりせず、いつも彼が使っている石鹸とシャンプーの匂いがする。 そこに絵の具の匂いが混ざっているのは、身体や衣服に染み付いているからだろう。 炭治郎の知らないところでも伊之助が頑張っているのがわかって嬉しくなると同時に、少しだけ寂しい気持ちにもなってしまう。 高校生だった時には、今よりずっと側にいられた。 だけどきっと、今の方が本当の意味で近づけているのだと思う。 伊之助のことが好きだという炭治郎の気持ちは、あの頃から変わらない。 だけど少し心が狭くなってしまったかなぁ、と時々感じてしまう。 自分の知らない伊之助の姿を想像すると、胸の辺りがちくりと痛み、知らない人物の名前がその口から出てくると、酷く落ち着かない気持ちになる時があるのだ。 いつから自分は、こんなに欲張りになったのだろう。 だけど仕方がないとも炭治郎は思う。 伊之助は自分にとって、たった一人の特別に好きな人なのだから。 「好きだぞ、伊之助。 大好きだ」 伊之助の耳元で囁くように告げて、今度は頬に口付ける。 伊之助はやはり目を覚まさなかったが、構わなかった。 炭治郎は満たされた気持ちで伊之助を抱き上げて、その身体をすぐ側にあるベッドの上に運ぶ。 来客用の布団もあるが、伊之助とはいつもベッドで共に眠っている。 一人暮らしを始める時に思い切って購入した、一人用には少し大きいサイズのベッドは、その為のものなので。 ゆっくりと伊之助の身体をベッドに下ろすと、ぎしりとスプリングの軋む音がした。 炭治郎は名残り惜しみながら、抱きつく為に絡められている伊之助の腕を丁寧に解く。 あたたかな身体から身を離すと途端に寂しさが湧いてきて、炭治郎はそんな自分に苦笑した。 早く寝支度を済ませて、伊之助と一緒に寝よう。 そう思って移動しようとした矢先、伊之助が薄く目を開いた。 「……どっか……いくのか……?」 ごんぱちろ、と舌ったらずに名前を呼ばれ、その上服の裾をちょこんと掴まれて、炭治郎の頭は一瞬真っ白になった。 ……いや。 いやいやいや。 ちょっと駄目だろう、これは。 ちょっと駄目なくらい、可愛らしすぎるだろう……! 変な声が漏れそうになるのを、炭治郎は何とか堪えた。 そしてどこか心細そうな伊之助を安心させる為にしっかりと目を合わせ、にこりと笑いかける。 「大丈夫、俺はどこにもいかないよ。 寝る準備をしてくるだけだ。 伊之助はここで待っていてくれるか?」 そう尋ねると、伊之助はゆっくりと目を瞬かせて、こくりと小さく頷いた。 「うん、いい子だ。 ……寝ちゃっててもいいからな」 あやすように頭を撫でてやると、伊之助はむにむにと口を動かした。 「なめんじゃ、ねぇ……ぞ。 よゆーで……まてる、わ……」 既に八割くらい眠っているような声で言われてしまって、その微笑ましさに炭治郎は目を細めた。 うん、うん、と相槌を打ち、伊之助の鼻先にキスを落とす。 「すぐ戻るよ」 「ん……」 裾を掴んでいる伊之助の手をやんわりと外し、炭治郎は立ち上がった。 そして後ろ髪を引かれながら、リビングから離れて洗面所へ向かう。 洗面台の前に立った炭治郎は、はあぁぁぁ……と大きく息をついた。 危なかった。 色々と、こう、本当に危なかった。 正面の鏡に映る自分の顔は面白いくらいに赤く、何とも言えない気恥ずかしさに、炭治郎は目を逸らして口元を手で押さえる。 ……久しぶりに、理性がどこかへ飛んで行きそうになってしまった。 でもあれは反則だろう。 ちょこんと裾を掴んできた伊之助の手と、眠たそうにしながらも寂しさを浮かべて潤む常盤色の瞳を思い出し、炭治郎はぶんぶんと首を横に振った。 胸がきゅんとする感覚は問題ないが、ムラっとしてしまうのはいただけない。 炭治郎はすぅ、はぁ、と深呼吸をして、ぱちんと両頬を手のひらで挟んだ。 頬のじんじんとした程良い痛みに、煩悩が引いていく。 よし、早く支度して眠ろう、と無駄に気合いを入れ直す。 歯を磨き、軽くシャワーを浴びて寝巻きに着替え、大好きな恋人が待っているベッドへ向かう。 あまりに幸せな一日の終わりに、炭治郎の顔は自然と緩んだ。 ……でも、今度伊之助がしっかり起きている時は、ちょっと色々我慢出来る自信がないなぁ。 入浴の為に服を脱ぎながら、そんな事を思う炭治郎だった。 ベッドまで運んであげようと腕に触れたら起こしてしまった。 「ベッドで寝よう」と声を掛けるとゔ〜んとか言って抱き着かれた。 甘えんぼさんめ。

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